大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)869号 判決 1986年8月21日
原告
大森英彦
外四〇名
原告ら訴訟代理人弁護士
高田良爾
稲村五夫
中山福二
中尾誠
吉良稔
大川真郎
足立昌昭
吉田恒俊
被告
近畿税理士会
(旧名称大阪合同税理士会)
右代表者会長
西浦保
右訴訟代理人弁護士
北尻得五郎
松本晶行
池上健治
布谷武治郎
川崎裕子
吉川実
主文
一 原告らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告らそれぞれに対し、金二二一九円及びこれに対する昭和五五年二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者及び関連諸団体
(一) 原告らは、被告近畿税理士会(昭和五四年当時の名称、大阪合同税理士会、以下、「被告大税会」という。)に所属する会員であり、税理士法所定の業務を行なつている税理士である。
(二) 被告大税会は、税理士法に基づいて設立された特殊公益法人であり、訴状記載の肩書地に住所を有している。
(三) 訴外日本税理士連合会(以下、「日税連」という。)も、税理士法に基づいて設立された法人であり、被告大税会を含め全国一四か所の国税局の管轄区域ごとに設立されている各税理士会(以下、「単位税理士会」という。)を会員とする特殊公益法人である。
(四) 訴外日本税理士政治連盟(以下、「日税政」という。)は、右各単位税理士会に対応する区域内に設けられた全国一四(但し、昭和五四年当時は沖縄を除く一三)の税理士政治連盟(以下、便宜「単位税政連」という。)によつて組織された団体である(日税政規約第五条一項)。
(五) 訴外近畿税理士政治連盟(昭和五四年当時の名称、大阪合同税理士政治連盟、以下、「大税政」という。)は、被告大税会に入会している税理士によつて組織された団体である(大税政規約第五条)。
2 被告大税会と関連諸団体との関係等
被告大税会と右日税連等関連諸団体の関係等を説明しておくと次のとおりである。
(一) 被告大税会と日税連との関係
(ア) 日税連は、前記のとおり税理士法に基づいて設立された法人であつて、被告大税会はじめ全国一四の単位税理士会を会員とするものであるところ、税理士法第四九条の一二第二項(昭和五五年法律二六号による改正前の同法第四九条の一四第二項)によれば、日税連は、「税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善、進歩に資するため、税理士会及びその会員に対する指導、連絡及び監督に関する事務を行(う)。」ことを目的とすると規定されており、日税連の会則第三条の(1)は、これをうけて、日税連は、「税理士会及びその会員の指導、連絡及び監督に関し必要な事項について、税理士会及びその会員に対し勧告をし、又は指示を行うこと」と規定している。
(イ) 被告大税会は、日税連に対し会費(特別会費を含む)、きよ出金等を納入している。
(二) 日税連と日税政の関係
(ア) 結成の趣旨・目的
日税政は、昭和三八年に結成された全国納税者政治連盟を前身として昭和四四年一月に改組・結成されたものであるが、日税連の補完的機能を果たす政治団体として組織されたものであり、日税政規約第三条(昭和五四年当時)は、「本連盟は、日本税理士連合会の方針に副い、税理士の社会的、経済的地位の向上を図るとともに、納税者のための民主的税理士制度および租税制度ならびに税務行政を確立するため、必要な政治活動を行うことを目的とする。」と定めている。
(イ) 会員構成
日税連は、全国一四の単位税理士会を会員とするものであり、日税政も、同じく全国一四(但し、昭和五四年当時は沖縄を除く一三)か所に設けられた税理士政治連盟(以下、「単位税政連」という。)を会員とする組織であるところ、右単位税理士会と単位税政連とはその管轄地域を同じくしており、各単位税理士会の会員と各単位税政連の会員は共通である。
(ウ) 財政面
日税連から日税政に対し寄附金を交付している。
(エ) 役員人事
日税政の役職中の要職は、そのほとんどが日税連の要職者によつて占められている。すなわち、別表(一)のとおり、昭和五四年九月当時、日税政の名誉会長、会長、副会長及び総務会会長、幹事長、推薦審査会長の地位は、いずれも日税連の会長、副会長、専務理事、常務理事によつて占められていた。
(三) 被告大税会と大税政の関係
(ア) 結成の趣旨・目的
大税政の規約第三条(昭和五四年当時)は、「本連盟は大阪合同税理士会の方針に副い税理士の社会的、経済的地位の向上を図るとともに、納税者のための民主的税理士制度および租税制度並びに税務行政を確保するため、必要な政治活動を行うことを目的とする。」と定めており、大税政は被告大税会の補完的機能を果たす政治団体として結成されたものである。
(イ) 会員構成
大税政は、規約第五条(昭和五四年当時)で、「本連盟は大阪合同税理士会に入会している税理士を会員として組織する。」と定め、第六条で「大阪合同税理士会に入会している税理士は、その資格において会員となる。」と定めており、被告大税会の会員は右自動加入制により、当然大税政の会員になることになつている。
(ウ) 財政面
被告大税会は大税政に対し寄付金を交付している。
(エ) 役員人事面
大税政の役職中の要職は、そのほとんどが被告大税会の要職者によつて占められている。すなわち、別表(二)のとおり、昭和五四年九月当時、大税政の名誉会長、会長、副会長の地位は、すべて被告大税会の会長、副会長、専務理事、常務理事によつて占められていた。
(四) 日税政と大税政の関係
日税政は、前記のとおり、大税政ほか単位税政連の集合体として組織されており、大税政は、日税政に対し、会費及び特別分担金を納入している。
3 被告大税会の決議と原告らの会費支払い等
(一) 被告大税会は、昭和五四年六月一六日、その第一五回定期総会において、昭和五四年度分からの会費を、従来の五万一〇〇〇円から日税連に対する特別会費分を含め五万四〇〇〇円に値上げすること及び日税連に対し会員一人当り会費八四〇〇円、特別会費二〇〇〇円計一万〇四〇〇円の割合による連合会費を納入し、大税政に対しきよ出金一五〇万円を交付することを決議した(以下、これを、「本件決議」という。)。
(二) 原告らは、右決議に基づいて、昭和五四年度中に、被告大税会の会費五万四〇〇〇円を支払つた。
(三) 被告大税会は、右決議に基づき原告ら会員から徴収した昭和五四年度分会費各五万四〇〇〇円の中から、そのうちの各二〇〇〇円を日税連への特別会費の納入に充て昭和五四年度中にこれを日税連に支払つたほか、大税政に対し右きよ出金一五〇万円を交付した。
4 しかしながら、(イ)右本件決議のうち、原告ら会員から特別会費分二〇〇〇円を徴収し、日税連に対し会員一人当り二〇〇〇円の割合による特別会費を納入すること及び大税政に対し一五〇万円のきよ出金を交付することを定めた部分(以下、「本件係争部分」という。)並びに(ロ)右決議に基づく特別会費分の徴収と日税連への特別会費の納入、大税政へのきよ出金の交付(以下、「本件係争金の徴収と交付」という。)は、いずれもそれが特定の政治家(衆議院議員ないしその立候補者)に対する政治献金を行うことを目的としてなされたものであるから無効であり、被告大税会は、原告らに対し、右特別会費分二〇〇〇円及び右きよ出金の一人当りの分担金相当額二一九円計二二一九円を返還すべき義務がある。
(一) 以下、これを明らかにするが、まず、本件決議がなされるに至るまでの経緯等を説明すると、次のとおりである。
(ア) 税理士法は、昭和二六年六月制定され、その後数度の改正を経て、昭和三九年に政府提案による税理士法改正案が国会に上呈された。しかし、その内容が余りにも独善的・官僚的であつたため、日税連執行部と全国の税理士会が一体となつて法案成立阻止運動を行なつた結果、衆議院通過後、参議院で継続審議となり、結局、昭和四〇年六月に廃案となつた。
(イ) 日税連は、その後、昭和四七年四月、「国民のための税理士制度の確立」をめざした「税理士法改正に関する基本要綱」(以下、「基本要綱」という。)を作成した。これは、日税連会長が昭和四一年、その諮問機関として設置した税理士制度調査会の答申に基づき、税理士会会員のすべてが直接民主主義方式による討議を重ねた結果、六年の歳月を費して作成されたものである。その内容は、税理士制度が真に納税者の要請に応えるとともに、民主的な税務行政の円滑、適正な実現に資するためには、「税理士の権利の保障、税理士倫理と責任の明確化、税理士界の自主権など、現行税理士法を抜本的に改正し、税理士の社会的地位の向上を図り、国民のための税理士制度として早急に確立されることが必要である」との基本認識に基づいたものであり、依頼者と税理士との現状認識のうえにその当時の税理士法の矛盾を是正し、税理士制度の将来への展望を開くものであつた。そして、日税連では、前記政府提出案が廃案となつた経緯に鑑み、議員立法による基本要綱の法案化を目指し、政治運動を開始した。
(ウ) ところが、昭和五〇年六月及び七月にそれぞれ行なわれた被告大税会役員選挙、日税連会長選挙においては、国税当局の猛烈な選挙干渉の結果、いずれも山本義雄氏が当選した。
山本新会長のもとでの日税連執行部は、長年の努力と英智を結集して作成された基本要綱を無視し、従来の議員立法による法改正作業の方向を一変し、政府との折衝による政府提案の改正へと方向転換を行なつた。
(エ) そして、自民党財政部税理士問題小委員会は、昭和五四年三月一三日、「税理士法改正要綱」を発表し、それに基づいて政府の手で「税理士法の一部を改正する法律案」(以下、「税理士法改正案」という。)が作成された。ところが、右税理士法改正案は、政府の大幅な歳入不足による赤字国債解消のために、一般消費税の導入を念頭に置いた大衆増税路線を背景としたものであつた。すなわち、一般消費税の導入には税務職員一万人の増員が必要であるといわれているが、政府はむしろ公務員の定員削減の方向を打ち出しているため、右法案は、税理士を徴税機構の中に組み入れることによつて、税務職員を増加することなく一般消費税の実現を図ろうとするものであつて、具体的には、税理士の業務範囲の対象税目に間接税(一般消費税を含む)を加え、税務行政に携つてきた税務職員には在職二三年(国税職員)又は二八年(地方税職員)で税理士資格を付与して離職後に行政官庁の補助機関として税務行政に従事することを期待するとともに、他面、税理士の助言義務規定や使用人等監督義務規定の創設、懲戒処分の即時発効制度の採用によつて税理士に対する統制を強化することを目指したものである。
(オ) 右税理士法改正案に対しては、全国的にみて相当数の税理士会員が反対し、全国青年税理士連盟(会員数約三千名)、全国専業税理士協会(会員数三千数百名)、税経新人会全国協議会(会員数約一千五百名)、全国婦人税理士連盟有志等業界内任意団体もいち早く強力な反対運動に立ち上がり、日税連に対する働きかけとともに、国会議員等を通じて右税理士法改正案の国会通過を阻止するための陳情等を繰り返し、広く国民に対しても反対を訴えた。
(カ) しかし、日税連の山本会長、四元専務理事らの一部幹部は、これら業界内反対勢力の強力な阻止行動に対して一切の話合いを拒否し、間接税(主として一般消費税)が扱えればよいという業界エゴの立場から対象税目の拡大のみを強調し、また山本会長にあつては、過去二回の日税連会長選挙及び選出母体である被告大税会の会長選挙の際における法改正実現の公約にこだわつて、右法改正案の国会通過を目指していた。
(キ) そして、日税連は、従来から右税理士法改正に関する活動費用等にあてるため特別会計を設け、単位税理士会に対し、法対策特別負担金ないし分担金の名目で単位税理士会の会員数に一定額を乗じた金員の拠出を求めていたが、昭和五三年九月頃、当時、衆議院の解散が予想されていたことからその議員立候補者らに対し政治献金を行うことによつて税理士法改正案を成立させようと企て、そのため、同月二二日の理事会において、(1)法対策特別会計として金融機関から二億円を借り入れること、(2)右借入金の返済に充てるため、会則に特別会費制度を新設し、昭和五四年度及び同五五年度の二か年度にわたつて、各単位税理士会から毎年度会員一人当り金三五〇〇円(二か年度会計七〇〇〇円)の割合で計算した額の特別会費を徴収すること、(3)右金融機関からの借り入れに伴つて昭和五三年度の法対策特別会計予算を組み替えること、の三点を議決し、更に、同年一〇月二六日の臨時総会において、総会の議決を要する右(2)、(3)の二点を議決決定した。
(ク) そして、右のごとく日税連において特別会費の徴収が決定された後、単位税理士会の一つである被告大税会は、前記のとおり、昭和五四年六月一六日の第一五回定期総会において会員一人当り年間二〇〇〇円の特別会費を徴収することを含む本件決議をしたのであるが、日税連は、その後間のない同年七月二七日の第二三回定期総会において、前記(キ)の(2)の点に関し特別会費の徴収期間を昭和五四年度から同五六年度の三か年にわたることとするとともに、その徴収額は、毎年度会員一人当り金二〇〇〇円(三か年度合計六〇〇〇円)とする旨、会則改正の決議をした。
(ケ) 以上のような経緯を経て、日税連は、昭和五三年度以降、金融機関から法対策特別会計として、昭和五三年度に八七五七万二〇〇〇円、同五四年度に八八九三万五〇〇〇円、合計一億七六五〇万七〇〇〇円を借り入れたり、単位税理士会から特別会費を徴収したりして(別表(三)の(1)、別表(四)の(イ)、(ロ)参照)、昭和五三年度に四五〇〇万円、同五四年度に二〇〇〇万円を、それぞれ特別対策費として支出したが、それは、その一部が、直接、日税政と各単位税政に対する各一五〇万円の寄附金となつたほか、残余は各単位税政連を通じて単位税政連から日税政に対して拠出する特別分担金の形式で日税政の収入金となつたものである(別表(三)の(2)ないし(4)、別表(四)の(ハ)ないし(チ)参照)。
(コ) しかるところ、前記政府提出にかかる税理士法改正案は、昭和五四年の第八七、八八の国会で二度廃案となり、同年九月、衆議院が解散されたので、日税政は、その頃、右税理士法改正案を次の国会で成立させるため、衆議院議員立候補者のうち約一〇〇名に対し、一人当り五〇万円ないし五〇〇万円の間で、合計約一億三〇〇〇万円にのぼる政治献金(以下、「本件政治献金」という。)をした(別表(三)の(5)、別表(四)の(リ)参照)。
(サ) 以上が税理士法改案に関する運動と資金の流れの概略であるが、これによれば、原告らが支払つた昭和五四年度分の会費五万四〇〇〇円のうちの特別会費分二〇〇〇円が、日税連の法対特別会計へ納入され、更に日税政等へ支出のうえ特定の政治家に対する本件政治献金に充てられたこと及び被告大税会が大税政に寄附した一五〇万円も同様にめぐりめぐつて本件政治献金に充てられたことは明らかである(なお、被告大税会には事業収入等会費以外の収入もあるが、被告大税会の事業部門は、それ自体を取り出してみると収入以上の支出があつて、実額主義で経理をすれば赤字であり、結局のところ、日税連へ特別会費として支出するには、原告ら会員から徴収した特別会費分をこれに充当するしかないものである)。
(シ) そして、日税政と日税連及び大税政と被告大税会は、それぞれ前記結成の趣旨・目的、財政面、役員人事等いずれの面からみても「表裏一体」、「車の両輪」といわれる関係にあつて組織的に一体というべき関係にあるところ、日税政と大税政及び日税連と被告大税会は、それぞれ上部組織と下部組織というべき関係にあつて、結局、これら四者は、法形式的には別個独立の法人格であるとしても、互に役割を分担しながら一定の方針のもとに有機的に結ばれ、組織的に一体となつて運営されているものであるから、本件政治献金が直接的には日税政によつて行われたものであるにしても、実質的には被告大税会がこれを行つたのと何ら変るところはないというべきである。
(ス) しかして、職務権限を有する国会議員もしくは将来職務権限を有すべきその候補者に対し、特定の法案を可決成立させるために政治献金をすることは、刑法上贈賄罪に該当し(このことは、本件捜査にあたつた東京地方検察庁が認めていることである。)、民法上違法であることは論をまたないところである。
(二) 以上の事実に照らしてみると、本件決議のうち本件係争金の徴収と交付を定めた本件係争部分は、以下に述べるいずれの理由によるにせよ無効であり、従つて、これに基づいて行なわれた本件係争金の徴収と交付も無効である。
(1) (本件決議の一部無効)―その一―違法な目的・動機の表示
本件決議のうち本件係争金の徴収と交付を決めた本件係争部分は、その決議の内容それ自体として特定政治家に対する政治献金を行うことを定めたものではないにしても、その決議の際、税理士法改正案を成立させるため国会議員(候補者)に対する政治献金を行うために本件係争金の徴収と交付を行うものであることすなわちその目的ないし動機を表示したうえで決議されたものであるから、無効である。すなわち、
(ア) まず第一に、被告大税会の役員は、本件決議当時、本件係争金の徴収と交付が前記政治献金を行うためのものであることを充分認識して、というよりもむしろこれを企図して右決議案の上程を行つたものである。このことは、(a)日税連は、かねてより特別会費として徴収する金員を、国会議員に対する政治献金に充てることを企図していたものであるところ(この点については、後記「大税界」昭和五三年一二月五日付第一七四号―甲第二六号証―参照)、被告大税会の山本義雄会長は、当時、日税連の会長を兼務しており、右日税連の目的を熟知していたこと、(b)被告大税会の副会長のほか理事の多数も、当時、日税連の理事も兼ねており、前記昭和五三年九月二二日の日税連の理事会に出席していたところ、その席上、特別会費を国会議員(候補者)に対する政治献金に充てることを前提とした議論がなされており、右出席者らは充分これを承知していたこと(このことは、後に日税政の安井徳治氏も認めている。)等からみて明らかである。
(イ) そして、第二に、右決議の目的ないし動機は、本件決議当時、決議に参加した会員に等しく認識されていた。このことは、(a)本件決議がなされる約半年前に被告大税会の会員に配布された「大税界」の昭和五三年一二月五日付第一七四号(甲第二六号証)において、「全国税理士宿願の税理士法改正運動が大詰めに差しかかつたいま、最後のツメとして国会議員対策が重要なポイントとなつてきました。……税政連では、この厳しい状況の中で、改正案の国会上程、更には可決成立を勝ちとるために、国会議員関係者に対して最後の運動を展開しなければなりません。」との報道がなされており、このような状況下においては、一般会員も通常の会費のほかに徴収される特別会費が日税連、日税政を通じて、結局、国会議員に対する政治献金に充てられることになることを当然認識していたと考えられること、(b)そして、本件決議がなされた被告大税会の第一五回定期総会の当日も、会費五万四〇〇〇円のうち二〇〇〇円が日税連に対する特別会費の支出に充てられることについて、被告大税会の会員が「会則第五一条改正の件について、今回年会費を五万四〇〇〇円に増額されようとしていますが、議案書六五ページ第三号議案の中にある日税連に対する特別会費二〇〇〇円を含んで計上されているのでしょうか」との質問を行つたのに対し、被告大税会の堀川経理部長が、「そのとおりでございます。」との答弁を行つていることによつて明らかである。
(ウ) そして、右のごとく違法な決議の目的ないし動機が、決議の際、決議に参加した者に認識されあるいは当然認識されるような状況にあつたような場合には、右認識、表示された決議の目的ないし動機は、それが決議の内容となつている場合と同様に、決議の違法・無効をもたらすものというべきである。
(2) (本件決議の一部無効)―その二―被告大税会の目的範囲の逸脱
仮に、右決議の目的ないし動機が決議の際表示されていたとは認められず、右(一)の主張が認められないとしても、本件決議のうちの本件係争部分は、以下に述べるとおり、被告大税会の目的の範囲を逸脱しているから無効である。すなわち、
(ア) 被告大税会は、特殊公益法人であつて、会員の利益のみならず公益保護の必要性という観点からも民法四三条が適用され、法令及び被告大税会の会則で定めた目的の範囲内においてのみ権利能力を有するものと解される。しかるところ、右目的の範囲内の行為とは、法令、会則に定める目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行するために直接又は間接に必要な行為であればこれに包含されると解されるが、その必要か否かは、当該行為が目的遂行に現実に必要であつたか否かによつて決せられるべきではなく、行為の客観的性質に照らし抽象的に判断されなければならない。
(イ) しかるところ、法令及び会則で定められた被告大税会の目的は、「税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡及び監督に関する業務を行うこと」(昭和五五年法律二六号による改正前の税理士法第四九条二項)であり、「税理士の使命及び職責にかんがみ、会員の品性保持と相互扶助に関する事務を行なうこと」(会則第二条)である。そして、会則第三条は、右目的達成のための事業として以下の事業を掲げている。
(第一項)
① 税理士業務に関する講習会又は研究会を開催する等会員の資質の向上を図る諸施策を実施すること。
② 税理士としての職業倫理に関する規範を定め、その保持高揚を図ること。
③ 日本税理士連合会が行なう税理士の登録に関し必要な事務を行なうこと。
④ 税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に関して税務官公署と連絡協議すること。
⑤ 税理士業務に関して会員の相談に応じ、資料を提供する等会員の業務の発展に必要な事業を行なうこと。
⑥ 会員の業務に関する紛議の調停を行なうこと。
⑦ 前各号のほか、本会の目的を達成するために必要な事業を行なう。
(第二項)
本会は、前項に規定する事業のほか、税務行政その他国税若しくは地方税又は税理士に関する制度の改善進歩について調査研究を行ない、必要に応じ、権限のある官公署に建議し、又は諮問に答申する。
(ウ) そこで、本件決議のうち本件係争金の徴収と交付を決めた本件係争部分が被告大税会の目的の範囲内であるか否かを考えるに、右決議部分が国会議員(候補者)に対する政治献金を行なうために行われたものであることは既に述べたとおりであるところ、被告大税会が、客観的にみて右のような意味を有する決議をすることは、行為の客観的性質に照らし抽象的に判断して法令、会則で定める目的遂行のために直接・間接に必要な行為ということができない。従つて、右決議部分は法令、会則の目的の範囲を逸脱し無効というべきである。
(3) (本件決議の一部無効)―その三―憲法一九条違反
仮に、以上の主張が認められないとしても、本件決議のうち本件係争部分は以下に述べるとおり、憲法の規定に照らし無効である。すなわち、
(ア) いうまでもなく、本件決議は、被告大税会の決議でありその会員に対し拘束力を有すべきものとしてなされたものである。殊に、特別会費分二〇〇〇円の徴収は、任意の募金を求めるものとしてなされたのではなくこれを納付しなければ法的徴収手続や会員の処分がなされる「会費」としてその納入を義務付けたものである。
(イ)ところが、本件決議のうち本件係争金の徴収と交付を決めた本件係争部分が特定の政治家に対する政治献金を行うために行われたものであることは既に述べたとおりであり、このような違法な目的のための金員の徴収及び会費の使用を会員に強いることは、結局、原告ら会員一人一人にその思想、信条に反した行動を強いるものでありその自由を侵すものであるから、憲法一九条に違反し、無効というべきである。
(三) 以上のとおり、本件決議のうちの本件係争部分及びこれに基づく本件係争金の徴収と交付が無効であるとすると、被告大税会は、原告ら会員に左記金員を返還すべきである。
(1) 特別会費分二〇〇〇円について
(a) 不当利得に基づく返還請求
右のとおり本件決議の係争部分が無効であるとすると、被告大税会は、もともと原告ら会員から特別会費分二〇〇〇円を徴収すべき何らの権限、根拠を有しなかつたものといわねばならない。
ところが、被告大税会は、前記のとおり、原告ら会員から特別会費分一人当り二〇〇〇円を徴収し、これを利得するとともに、原告ら会員にこれと同額の損害を与えている。
従つて、被告大税会は、右二〇〇〇円について、不当利得としてこれを原告らに対し返還する義務を負うものというべきである。
(b) 不法行為に基づく損害賠償請求
被告大税会は、組織的一体性を有する日税連、日税政、大税政と共同して、違法な政治献金を行うため、原告ら会員から特別会費分という名目で二〇〇〇円宛を徴収し、原告ら会員に義務なき金員の支払いを事実上強制しこれと同額の損害を蒙らせたものである。
従つて、被告大税会は、右違法な徴収行為により、原告ら各自に与えた二〇〇〇円の損害を賠償すべき義務を負うものというべきである。
(c) 契約に基づく返還請求
(ア) 原告らは、被告大税会の会員であるところ、その会員としての地位は、原告らと被告大税会との間の契約に基づいて発生しているものであり、原告らは、右契約に基づいて、被告との間に諸種の権利義務を有している。そして、右権利義務の一内容として、原告らは、被告大税会に対し会費を納入する義務を負つているが、原告らと被告大税会との間の契約関係に照らすと、右義務は、会費が正当な目的・方法で支出されることを条件として発生するものというべきである。
(イ) ところで、原告らが被告大税会に納入した昭和五四年度分の会費のうち二〇〇〇円は直接本件政治献金として支出されたものでないにしても、結局、めぐりめぐつて本件政治献金に充てられたことは前記のとおりであり、また、前に述べた被告大税会と日税連、日税政の組織的一体性からするとそれは、被告大税会が日税連、日税政、大税政と共同して支出したものとみるべきである。
(ウ) しかるところ、被告大税会が国会議員(候補者)に対し政治献金をすることは違法であるから、特別会費分二〇〇〇円の支出は正当な目的・方法でなされたものとはいえず、前記契約上の会費納入の条件を欠くことになるから被告大税会は、原告らとの契約関係に基づいて、右違法な目的のために支出した特別会費分二〇〇〇円相当分を返還すべき義務がある。
(2) 会費二一九円分について
(ア) 被告大税会が、原告ら会員から徴収した会費の中から、税理士法改正案を成立させるため、国会議員(候補者)らに対する政治献金の資金として大税政に一五〇万円を交付したことは前記のとおりである。
そして、右一五〇万円を会員一人当りの負担額として算出すると二一九円となるところ、右大税政に対する政治献金資金の交付が許されず、無効なものであることも前記のとおりである。
従つて、被告大税会は、原告ら各自に対し、右無効な決議に基づきその目的の範囲を越えて支出した原告ら会員一人当り二一九円の会費を右(1)の(a)、(c)において述べたとの同様の理由により、返還すべき義務を負うものというべきである。
よつて、原告らは、それぞれ、被告大税会に対し、本件決議の一部無効もしくは本件係争金の徴収、交付無効を理由とする(a)不当利得返還請求権、(b)不法行為による損害賠償請求権、又は(c)契約上の返還請求権に基づいて金二〇〇〇円、総会決議の一部無効を理由とする右(a)、(c)の返還請求権に基づいて金二一九円、右合計二二一九円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五五年二月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)ないし(五)、同2(一)ないし(四)、同3(一)ないし(三)の各事実はいずれもこれを認める。
2 同4(一)の(ア)ないし(ス)の事実中、(キ)のうちの理事会・総会における各議決が政治献金を行うためになされたとの点(この部分は否認)を除く、その余の事実、(ク)の事実、(ケ)のうち日税連が、昭和五三年度と同五四年度に、特別対策費として四五〇〇万円と二〇〇〇万円を支出したこと、(コ)の政治献金に関する事実のうち、日税政が衆議院議員立候補者九三名に対し総額一億一七〇〇万円の本件政治献金をしたとされているという限度の事実は認めるが、(サ)、(シ)の事実及び主張は争う。同(二)(1)ないし(3)の事実中、(1)のうち被告大税会の山本義雄会長が、昭和五四年当時、日税連の会長を兼務しその他理事の中にも兼務者がいたこと、「大税界」第一七四号に原告ら主張のごとき報道がなされ被告大税会の第一五回定期総会において原告ら主張のごとき問答がなされたこと、(2)のうち、被告大税会が特殊公益法人であつて、法令、会則に原告ら主張のごとき定めがなされていることは認めるが、その余の事実及び主張は争う、同(三)の(1)、(2)の事実及び主張は争う。
三 被告大税会の主張
1 本件決議の目的等について
本件決議は、原告ら主張のごとく特定の政治家へ政治献金を行うためになされたものではなく、当時、単位税理士会が日税連に納める会費が会員一人あたり月額一〇〇円(年間一二〇〇円)増額される予定であり、かつ、公共料金等諸物価の上昇により従来の会費では必要経費をまかないきれなくなつてきたことと、日税連において、従来、法対策負担金ないし分担金の名目で単位税理士会から徴収していた金員を特別会費として徴収することに決定したことに対応してなされたものである。以下、この点を説明すると、次のとおりである。
(一) 日税連の会員は、原告らも主張するとおり、個々の税理士ではなく、単位税理士会であるところ、被告大税会を含む各単位税理士会は、従来より日税連に対する会費(以下、「連合会費」という。)として、毎月末におけるその会の会員数に一定額(昭和五三年度当時は一人当り六〇〇円)を乗じて得た金額をその月分の会費としてその翌月末までに日税連に納付していた。
ところが、公共料金、諸物価の上昇に伴い昭和五四年度以降の連合会費が会員一人当り月額一〇〇円年間一二〇〇円増額されることが予定されるに至つた。
(二) また、日税連は、昭和四四年、税理士法改正対策委員会の発足と税理士法改正に関する基本要綱作成作業の本格化に伴い、右法対策関係費用の財源として、各単位税理士会から、連合会費とは別に賦課金を徴収することとし、年度開始の日(四月一日)現在の単位税理士会の会員数に一定の額を乗じた金額を、その年度の九月末日までに一括納入させていたが、その昭和四四年度以降昭和五三年度までの各年度における右一定額の金額と賦課金の名称は、(イ)昭和四四、四五年度は法対策特別負担金として一人当り一五〇〇円、(ロ)昭和四六年度以降は法対策特別分担金として、昭和四八年度までは一人当り一五〇〇円、昭和四九年度以降は一人当り二〇〇〇円というものであつた(もちろん、右負担金ないし分担金の納入者は連合会費と同じく、単位税理士会であって、個々の税理士が日税連に対し負担し、納付するものではなく、右負担に対応する単位税理士会の財源措置は各単位税理士会に委ねられており、単位税理士会においては適宜の財源からこれを調達、納入すればよかつたものである。)。
しかし、右負担金ないし分担金は日税連総会で決定されたものではあるが、会則で定められたものではなかつたところ、日税連経理部、会務制度委員会から、一〇年来継続してきた法対策特別負担金ないし分担金の徴収は実質的には会費と同じであるから、その根拠規定を会則上明示すべきであるとの意見が出されたため、日税連ではこの意見に従つて会則に根拠規定を置くこととし、昭和五三年九月二二日の理事会と同年一〇月二六日の総会において、原告ら主張のごとくこれを特別会費として徴収する旨の議決を行つたものである。
(三) 以上のとおり、連合会費が会員一人当り月一〇〇円(年間一二〇〇円)増額されることが予定されたことと諸物価の上昇により、被告大税会としては極力支出を抑制しても会員から徴収する従前の会費によつては、会費以外の収入を合わせてみてもとうてい必要経費を賄いえない状況となり、また前記日税連の議決に伴い従来負担金ないし分担金として日税連に納めていたものを特別会費として納入しなければならなくなつたため、被告大税会は、昭和五四年六月一六日の定期総会において特別決議をもつて、従前の会費額一年度分五万一〇〇〇円を五万四〇〇〇円に改訂し、前記賦課金を特別会費として日税連に納入する旨の本件決議を行なつたものである。しかして、本件決議の中で、被告大税会として日税連に対し会員一人当り負担額一万〇四〇〇円(内訳、会費八四〇〇円、特別会費二〇〇〇円)の割合による連合会費を納めることを決定したことは原告ら主張のとおりであるが、右特別会費分二〇〇〇円というのは前記のとおり従来分担金ないし負担金として納めていたものを前記日税連の決定に対応して特別会費として納めることにしたものにすぎず、原告らが、特定の政治家に対し政治献金を行うために特別会費として二〇〇〇円を徴収することを決め、そのために会費の増額を決定したかのようにいうのは誤りである。右総会当日の質疑において、右改訂会費五万四〇〇〇円の中には日税連に対する特別会費分二〇〇〇円も含まれているとの応答がなされているが、それは、被告大税会の会費を五万四〇〇〇円に増額するという改訂案を作成するにあたつて日税連に対し特別会費として一人当り二〇〇〇円を納入しなければならないことを含めて計算してあるということを説明したものにほかならない。
2 昭和五四年度分の会費と本件政治献金の関連性について
原告らは、原告らが本件決議に基づき納めた昭和五四年度の会費のうちの二〇〇〇円が、日税連へ特別会費として納入され、それが本件政治献金の資金となつた旨主張するようであるが、これは以下の諸事実に照らし誤りであることが明らかである。
(一) 第一に、原告らが原告らにおいて納めた昭和五四年度分の会費のうちの二〇〇〇円が、分別され、そのまま特別会費として日税連に納入されたかのようにいう点は誤りである。
(1) まず、被告大税会から日税連に対する特別負担金ないし分担金(昭和五四年度以降は特別会費)の納付は、前記のとおり、その年度の開始日(四月一日)現在の被告大税会の会員数に一定額を乗じた額をその年度の九月末日までに支払うことになつていたところ、昭和五四年度の四月一日現在の被告大税会の会員数は六七五八人であり、同年度の一定額は二〇〇〇円であつたから、被告大税会は、昭和五四年八月二四日、二〇〇〇円に六七五八を乗じた額である一三五一万六〇〇〇円を特別会費分として日税連に納付した。
(2) 一方、被告大税会は会員が納める会費のみによつてではなく、その他繰越金、入会金、事業収入、手数料収入、寄附金、雑収入等の総収入によつてその支出を賄い運営を行つているものであり、その会費の納付については、会則上は原則として四月に一括納付、但し、四月、八月、一二月の三回に均等分割して納めることもできるとしているのであるが、実際の収納状況は必ずしも会則どおりにはなつておらず、かなりの額がその他の月にも納入されているというのが実情である。ちなみに、昭和五四年度における原告らの会費納入は分納によるものがほとんどであり、同年度の特別会費が支払われた昭和五四年八月二四日までに全額を納付していた者は六名にすぎない。
(3) 以上の事実からみれば、原告らが納入した昭和五四年度分の会費のうちの二〇〇〇円を分別しそれを特別会費として日税連へ納入したものでないことは明らかであり、原告らの主張が誤りであることは明白である。
(二) 次に、日税連へ納入された昭和五四年度の特別会費分がそのまま日税政や単位税政を通じて本件政治献金の資金になつたかのようにいう点も誤りである。
(1) まず、単位税理士会からの日税連への特別会費の納入、日税連からの日税政、単位税政への寄附金を含む特別対策費の支払は、いずれも日税連の法対策特別会計において処理されるものであるところ、日税連の昭和五四年度法対策特別会計予算の内訳は次のとおりである。
(収入)
繰越金 五四九一万一〇〇〇円
雑収入 六〇万円
当年度特別会費 六五八五万八〇〇〇円
借入金 一億円(翌年度以降の特別会費で返済)
合計 二億二一三六万九〇〇〇円
(支出)
法対策委員会運営費 一〇八九万五〇〇〇円
連絡協議費 二七五万二〇〇〇円
広報宣伝費 一六〇〇万円
事業管理費 八七六一万二〇〇〇円
特別対策費 二〇〇〇万円
借入金返済支出 六四七八万六〇〇〇円
支払利子 七九〇万二〇〇〇円
予備費 一一四万二二〇〇円
合計 二億二一三六万九〇〇〇円
右により明らかなように、昭和五四年度における日税連の日税政、単位税政連宛への寄附金を含む特別対策費は二〇〇〇万円にすぎず、それは被告大税会ら単位税理士会からの特別会費の納入をまつまでもなく前年度の繰越金で十分賄えるものであるから、右特別対策費が右単位税理士会から納入された昭和五四年度の特別会費から支出されたということ自体、特定できないというべきである。
(2) 更に、日税連が昭和五四年度中に支出した特別対策費二〇〇〇万円が何らかの形で日税政や単位税政に入つたことは事実としても、それが、そのまま日税政が行なつた本件政治献金の源資になつているとは断定できない。何故なら、日税政についてだけ検討してみても、その昭和五四年度の収入は、収支予算案(甲第七号証)によると、左記のとおりであるところ、これによれば、ここでも差当り前年度の繰越金のみで本件政治献金を賄うに十分であつたことが明らかだからである。
記
前年度繰越金 一億四三九一万八一一〇円
日税連寄附金 一五〇万円
単位税政連ほかからの特別分担金 六三五〇万円
会費 三三三七万九〇〇〇円
広告料収入 五〇万円
雑収入 一〇〇万円
合計 二億四三七九万七一一〇円
3 被告大税会と関連諸団体の組織的一体性について
(一) 原告らは、日税政及び単位税政連の結成の趣旨・目的からこれと日税連及び単位税理士会との一体性を主張する。確かに、日税政や単位税政連は、強制加入の公益法人である日税連や単位税理士会が行なう政治活動には自ら限界があるので、これを補うために結成されたものであろうが、あくまでも両者は別人格である。そして、両者がそれぞれ独立の立場で活動をしていることは、例えば、昭和四八年の商法改正の際に、日税連会長から日税連の方針を尊重するように要望したにもかかわらず、日税連が日税連の方針と相反する陳情を行なつたことからも明らかである。
(二) また、会員構成の点についても、単位税理士会と単位税政連の関係についていうと、大税政の規約によれば、「大阪合同税理士会に入会している税理士は、その資格において会員となる。」と定められており、形式上は自動加入制により被告大税会の会員全員が大税政の会員になるかのように見えるが、事実はそうではなく、被告大税会の会員ではあるが、大税政の会費を払わずその会員ではない者が少なからず存在することは厳然たる事実である。右規約の定めは、大税政への入会には特段入会手続を要しないことを明らかにしたものにすぎず、大税政への入会はあくまでも任意であり、実質的には会費を支払つている者が税政連の会員となるという程度のことを意味するものにすぎない。単位税理士会と単位税政連との間には、一方が公法人、他方が任意団体という決定的な相違があり、組織、機構をも異にするのであつて、とうてい一体とは言い難い。
(三) 原告らは、また、双方の役員の要職者が共通であるという役員人事の面からも日税連及び単位税理士会と日税政及び単位税政連とが一体であることが裏付けられるというが、税理士が組織している団体である限り、役員に同一人が選ばれることはごく自然なことであつて、一体性の根拠となるものではない。
4 本件決議一部無効の主張について
(一) 目的・動機の違法による決議の無効
(ア) そもそも、本件決議のうち一部が無効という考え方はとり難い。本件決議の対象は、会費を五万四〇〇〇円にするか否かであつて、金額は決議の内容として不可分であり、そのうち五万二〇〇〇円部分は有効であるというような考え方は採り得ない。決議の一部無効ということがあり得るとしても、それは、例えば決議内容として、改定すべき会則の文言が複数あり、「この部分」という特定がなされ得るような場合に限られるというべきである。
(イ) また、原告らは、本件決議の目的ないし動機が違法であるから決議は無効であるというのであるが、決議をなすに至る縁由は、決議の無効をもたらすものではないと解すべきである。何故なら、被告大税会の総会において決議された事項、本件でいえば会則改正は、現在のみならず将来の会員をも拘束する効果をもつものであるから、決議の目的・動機にすぎないものは、たとえ、それが決議の時点で確認しうるものであるとしても決議の内容をなすものと解すべきではなく、従つて、決議の無効をもたらすものではないというべきだからである。決議の目的・動機が違法であつても決議の無効をもたらすものではないことは、最高裁判所昭和三五年一月一二日第三小法廷判決の明示するところである。
(ウ) 原告らは、本件会費増額決議の目的は国会議員(候補者)に対する政治献金のための資金を徴収することにあつたと主張するが、総会の構成員となつた被告大税会の出席会員はもちろんのこと、同会の理事者らにおいても、当時右政治献金のための資金を徴収する目的で本件決議を行つたものではない。単位税理士会から、日税連が行う税理士制度の調査、研究や税理士法、商法の改正に関する活動を行うための費用に充るため日税連の法対策特別会計に法対策特別負担金ないし分担金を納入することは、従前から行われていたことであり、本件決議によりその名称が特別会費と改められたものの、その徴収目的は全く変わつていないのであり、格別、政治献金の資金調達を行うために右のごとき改正を行つたものではない。
(二) 法、会則の目的の範囲の逸脱による決議の一部無効
本件決議(会費増額)の目的は、連合会費の増額(特別会費ではなく、一般の会費が会員一人当り一年度分一二〇〇円増額されたこと)と公共料金等諸物価の上昇に対処するためであつて、原告らの主張するような国会議員(候補者)に対する政治献金の資金を調達することにあつたのではない。従つて、本件決議は、被告大税会の目的の範囲を何ら逸脱するものではない。
また、被告大税会の目的は、原告らもいうように法令、会則に明示された目的自体に限局されず、客観的抽象的にみて目的を遂行するうえで直接、間接必要なすべての行為を含むものと解される。そうだとすれば、被告大税会が税理士業務の改善進歩に資するため、税理士業務に直接関連する税理士法、商法等の改正に意を用い、法改正運動を含む政治的活動を行なうことは当然目的の範囲に含まれると解されるところ、日税連に対する特別会費は、右税理士法等の改正に関する活動のための費用に充るべきものとして支出されたのであり、また、大税政に対するきよ出金の交付は、被告大税会の方針に従い税理士の社会的、経済的地位の向上等を図り税理士会の目的とする事業を援助することを目的とした政治団体(大税政)への寄附であることからみて、いずれも被告大税会の目的の範囲内にあることは明らかである。
そして、かかる行為が会員の思想、信条の自由を犯し、憲法一九条に違反するものでないことは、いうまでもない。
5 原告らの返還請求について
(一) 不当利得に基づく返還請求
原告らが、被告大税会は原告らから特別会費分二〇〇〇円を徴すべき何らの権限、根拠を有しなかつたとする点が誤りであることは既に述べたとおりである。
そして、有効に成立した本件決議に基づき適法に支出された金員について、その後右金員が現実にどのように費消されたかという結果から翻つて必要・不必要を論じようとする原告らの論旨は、その立論の前提において誤つている。
(二) 不法行為に基づく損害賠償請求について
これも、被告大税会が組織的一体性を有する日税連、日税政、大税政と共同して、違法な政治献金を行うために特別会費を徴収したという前提そのものが誤りであることは既に述べたとおりである。
また、仮に、違法な支出が行われた場合でも、一般的に税理士会の予算の執行としての支出が、直接、個々の会員の損害となるとはいえないのであつて、支出によつて生ずべき損害の帰属は、あくまでも税理士会自身である。
(三) 契約に基づく返還請求について
(1) 税理士会は、税理士法に基づいて設立された特殊法人であるところ、昭和五五年法律第二六号による改正前の税理士法第四九条の七第一項は、「税理士は、税理士会に入会届を提出した時から、当該税理士会の会員となる。」と規定しており、入会は税理士の意思のみにかかるものであつて、税理士会の承認その他を要しない一方的行為である。
入会者は、入会申入書の提出と同時に、当然会員としての地位を有し、税理士会の会則を守る義務を負う(同改正前の税理士法第四九条の八)。そして、入会した税理士の会員としての地位は、専ら税理士法、大蔵大臣の認可を受けた会則などにより律されるのであつて、原告らのいうような契約関係から生じる権利義務関係をもつて論ずべきものではない。
(2) 原告らは、会費の納入義務が出費の目的・方法の正当性を条件としている旨主張しているが、これは誤りである。会費に関する規定は、会則で定める事項であり(同改正前の税理士法第四九条の二第二項六号)、会員は当然会費を負担し、これを納付しなければならないのであつて、会費の負担、納付は無条件である。
(3) そして、被告大税会が、日税連、日税政、大税政と共同して本件政治献金を行なつたという事実はなく、被告大税会が行つた支出には、何ら違法、不当な点はない。
(4) 会費二一九円分の返還請求
大税政へのきよ出金(寄附金)の交付が何ら違法なものでないことは、既に述べたとおりであり、この点に関する主張も理由がない。
第三 証拠<省略>
理由
請求原因1の(一)ないし(五)(当事者及び関連諸団体)、同2の(一)ないし(四)(被告大税会と関連諸団体との関係)、同3(一)ないし(三)(本件決議の成立とこれに基づく昭和五四年度分会費の納入と支出)の各事実については当事者間に争いがない。
二そこで、次に、同4(一)ないし(三)(本件決議の一部無効とこれに基づく本件係争金の徴収と交付の無効)について判断するが、原告らの右無効の主張は、いずれも本件決議が特定の政治家に対し政治献金を行うことを目的としてなされたものであることを前提事実とするものであると解されるので、以下、まず右事実の有無について検討する。
1 しかるところ、同4(一)の事実(本件決議がなされるまでの経緯等)と被告大税会主張の事実のうち、(イ)税理士法が昭和二六年六月に制定され、その後数度の改正を経て昭和三九年に政府提案による税理士法改正案が国会に上呈されたが、これについては、日税連執行部や全国の税理士会に反対する者があり、右改正案は、結局、昭和四〇年六月に廃案となつたこと、(ロ)日税連は、昭和四四年、税理士法改正対策委員会を発足させるとともに、税理士法改正に関する基本要綱作成作業の本格化に伴う右法対策関係費の財源として各単位税理士会から連合会費とは別に一定の賦課金を徴収することとし、昭和四四年以降、法対策負担金ないし分担金として被告大税会主張の金員を納付させていたこと、(ハ)その後、日税連は、昭和四七年四月、基本要綱を作成し、議員立法による基本要綱の法案化を目指す活動を行つていたこと、(ニ)ところが、昭和五〇年六月と七月に行われた被告大税会役員選挙、日税連会長選挙において山本義雄が右各会の会長に選出され、その後日税連の執行部の中には、従来の議員立法による基本要綱の法案化の動きとは別に政府との折衝によつて税理士法の改正を実現しようとする動きがでてきたが、これに対しては原告ら主張の全国青年税理士連盟等強力に反対するものもあつたこと、以上の事実については、互に明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。
2 そして、日税連が、昭和五三年九月二二日に開かれた理事会において原告ら主張のごとき議決を行い、そのうち総会の議決を要する点については同年一〇月二六日の臨時総会においてこれを可とする議決がなされたこと及び昭和五四年六月一六日に開かれた被告大税会の第一五回定期総会において本件決議がなされたことについては当事者間に争いがなく、<証拠>によると、
(一) 昭和五三年九月二二日に開かれた日税連の理事会においては、春好専務理事から、第二号議案「法対策特別資金の借入れについて」に関し、「現在、法改正は重大な局面を迎えており、このため国会対策等に相当の資金が緊急に必要とされている、ついては当面必要とされる資金を取りあえず金融機関から借入れることとしたい」旨の説明がなされた後、第三号議案「昭和五三年度法対策特別会計予算の組替えの件」について、「金融機関から借入れる二億円をもつて特別対策費、事業費、支払利息及び予備費に充ることとしたい、このうち特別対策費は日本税理士政治連盟等への交付金であるが、政治資金規正法上、本会(日税連)が交付できる金額は年間四五〇〇万円であるところから現行予算上の二〇〇〇万円に新らたに七〇〇〇万円を追加補正し、二ケ年分九〇〇〇万円として計上した、また、事業費として追加補正した一億一〇〇〇万円については、これ以外に必要な法対策費用に充てようとするものである」旨の説明がなされた。そして、その後、四元専務理事から、「法対策に要する費用については、従来総会決議に基づく法対策特別分担金を充てていたところ、経理部、会務制度委員会から、当該分担金は実質的には会費に相当するので、その根拠規定を会則上明示すべきであるという意見が出されたこともあつて、昭和五三年度の定期総会ではその徴収を付議することができなかつたが、本会(日税連)としては、種々検討した結果、特別会費の形が妥当であるとの結論に達した、しかし、単位税理士会の負担分については募金、寄附等の適宜の調達方法によつてもよい」旨の説明がなされた。その後、質疑応答に入り、本特別会費の徴収は憲法上疑義があり政治資金規正法並びに税理法上問題があると思うがどうか等との質問に対し、右四元専務理事より、「本特別会費の直接の納付義務者は各税理士会でありその会員ではなく、しかも各会は会費によらず募金等の任意の方法をもつて調達することも可能であつて各会の会員にその納付方を強制するものではないから、当該会員の政治的思想の自由を害するものとは思われない、この法対策特別資金はあくまでも税理士法改正のために充てられるものであるから、特定の立候補者支援のためその所属政党に寄附する資金を組合費として徴収することは違反であるとする最高裁判例(昭五〇・一一・二八)とはその趣旨が異なり何ら問題はない、一〇月中にも国税庁・主税局と自民党税理士問題小委員会との間で(法改正の叩き台とでもいうべき素案)が策定される運びとなつており、今ここで積極的な運動を展開しなければその期を逸するとともに、外部利害関係団体の熾烈な反対運動に抗し切れず不本意な結果を招くことにもなりかねないので協力願いたい」との応答がなされたこと、
(二) その後、被告大税会の会員に配布された昭和五三年一二月五日付「大税界」第一七四号(甲第二六号証)において「全国税理士宿願の税理士法改正運動が大詰めに差しかかつたいま、最後のツメとして国会議員対策が重要なポイントになつてきた、税政連ではこの厳しい状況の中で改正案の国会上程、更には可決成立を勝ちとるために、国会議員関係者に対し最後の運動を展開しなければならない」旨の報道がなされ、翌昭和五四年三月一三日には、自民党財政部税理士問題小委員会によつて「税理士法改正要綱」が発表されるに至つたこと(右要綱発表の事実については被告大税会において明らかに争わないので自白したものとみなす)、
(三) こうした状況の下で、昭和五四年六月一六日、被告大税会の第一五回定期総会が開かれたのであるが、その席での会費値上げの議案(第二号議案会則一部改正案承認の件)の審議において、会員が、「会則第五一条改正の件について、今回年会費を五万四〇〇〇円に増額しようとしているが、……日税連に対する特別会費二〇〇〇円を含んで計上されているか」と質問したのに対し、堀川経理部長が、「そのとおりである」旨答え、会員が右特別会費二〇〇〇円の使用目的を尋ねたのに対し、春好副会長が「従来から日税連では法対策特別会計を持つており各単位税理士会に分担金を負担させていたが、それが継続、平準化したので特別分担金では具合が悪い、特別会費に直そうということで特別会費となつたが、それは従来と変りなく法対策特別会計の支出に充てられておりその内容としては税理士法改正、商法改正等等の費用である」旨応答し、続いて日税連法対策特別会計予算のうち「特別対策費二〇〇〇万円」について、「これは税政連への寄附金である」と説明していること、更に、山本会長が日税連から税政連への寄附金について、「税政連は会費を取つているけれども、それではとうてい税政連で使う経費は足らないので、日税連から政治資金規正法の範囲内で従来から資金を渡していたのである」旨述べていること、以上の事実が認められる。
3 そこで、以上1、2に判示した事実に照らし、本件決議が原告ら主張のごとく特定の政治家に対し政治献金を行うことを目的としてなされたものであるか否かを考えるに、まず、本件決議に先立ち昭和五三年九月二二日に行われた日税連の理事会の議決についてみると、右理事会では、当時既に、近い将来政府及び自民党関係者による法改正案の素案が策定される運びになつておりこの際法改正実現のための運動を強化しなければならないとの認識に立ち、そのために日税連としては政治資金規正法上許される最高限度額の金員を日税政等へ交付するほか、更にそれ以外の法対策費用に充てるために一億一〇〇〇万円にのぼる事業費の追加補正を行つたものであるというべきところ、<証拠>によると、右理事会当時その理事の一員であり本件政治献金当時日税政の財務委員会副委員長であつた安井徳治は、新聞記者に対し、「福田内閣の昨年(昭和五三年)九月ごろ解散風が吹いたので、山本会長と四元専務理事らの考えで政治資金を調達したいとなつており、日税連理事会で決めた。しかし会には全税理士が強制加入なので、全員から集めるのは憲法違反の疑いがあるとして昨年九月から同一〇月までもめた。しかし昨年一〇月二六日の日税連臨時総会で、献金の源資を全税理士に負担させることに決定した。」旨述べていることが明らかであり、前記理事会における質疑応答の内容や日税政等への交付金のほかそれ以外に必要な法対策費用に充てるためとはいうもののその具体的な使途について説明のないまま事業費として一億一〇〇〇万円もの追加補正がなされていること、更には、右安井発言のごとき発言が存することに徴すると、右安井発言があるからといつて、直ちに、右理事会において特定の政治家に対する政治献金を行うために前記予算組替えの決議を行つたものであるとまでは断定できないとしても(前記理事会における質疑応答の内容からみても直ちに右安井発言のごとく断定するのは相当でなく、他にこれを認めるに足る証拠はない)、少なくとも右理事会に参加した理事の中にその当時の諸般の状況から判断して政治献金の資金を調達するために右予算組替えの決議を行うのではないかとの推測ないし疑念を抱いた者が存したとしてもあながち不自然ではなく、かかる観点から右議案の議決に参加した者も存するであろうことはたやすく否定できないものと考えられる。そして、かかる事実のほか、右理事会には本件決議当時の被告大税会の会長山本義雄及び副会長春好幸雄がそれぞれ右理事会の会長及び専務理事として参加していたほか被告大税会の所属会員一〇数名が理事として出席していたこと(前掲甲第三一号証)、右理事会の後、本件決議がなされた被告大税会の第一五回定期総会までの間に、前記のとおり「全国税理士宿願の税理士法改正運動が大詰めにさしかかつたいま、……改正案の国会上程、更には可決成立を勝ちとるために、国会議員関係者に対して最後の運動を展開しなければならない」旨報じた「大税界」(甲第二六号証)が被告大税会の会員に配布されていること、そして、本件決議後のことではあるが、その後間もない昭和五四年九月頃、現実に税理士法の改正に関し、日税政や単位税政連を通じ一〇〇名前後の政治家に合計一億円を超える政治献金がなされたとされていること(被告大税会においても九〇余名の政治家に対し一億円余の政治献金がなされたとされていることについては争つていない)、以上のごとき事実を総合考慮すると、原告らが本件決議は特定の政治家へ政治献金を行うことを目的としてなされたものであると主張するのも、全く理由のないことではないと考えられるというべきであるが、本件決議当時、既に日税連ないし日税政や単位税政連が右政治献金を行うことを確定的に決定しており、被告大税会の執行部が直接右政治献金を行うことを目的として本件決議案を提出したことについてはこれを認めるに足る証拠はなく、また、右決議に参加した被告大税会の会員全員ないしは少なくともその過半数のものが政治献金の資金調達のためのものであるとの認識のもとに右議案の議決に参加したことについてもこれを認めるに足る証拠はない。
そうだとすると、本件決議が特定の政治家に対し政治献金を行うことを目的としてなされたものであり、従つて、これに基づく本件係争金の徴収と交付も右目的をもつてなされたものであることを前提とする原告らの本件決議の一部無効とこれに基づく本件係争金の徴収、交付の無効に関する主張は、いずれもその余の点の判断に及ぶまでもなく全て理由がないといわざるをえない。
なお、附言するに、<証拠>によれば、被告大税会は、昭和五〇年度から昭和五二年度の間においても、大税政に対し、毎年一五〇万円をきよ出金として支出していることが認められるが、右数年間のきよ出金については特段本件のような政治献金に充てられた形跡は見当らず、いわば定例的に支出されていたものと考えられるところ、昭和五四年における一五〇万円のきよ出金についても、これら例年のものと異なり政治献金のためという特別の目的のためになされたものと認むべき証拠はない。
三以上のとおりとすると、原告らの本訴請求は理由がないというべきであるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官上野 茂 裁判官小原春夫、裁判官大須賀滋は、いずれも転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官上野 茂)